ならら

「この子達はどんぐりが大好物なんです」

腰に籠を下げたホルン吹きのお兄さんが言った。

それを聞いた私は驚愕した。
鹿といえば我々一般の人間が公式に与えていいのは鹿煎餅だけだからである。
公式に、と書いたのは勝手に他の食物（果物とかお菓子とか）を与える人間がいるからだ。
コレは鹿の健康を害すだけではなくひいては死に至る場合もあるので（天然記念動物ですし）皆様には是非留意していただきたい。

あとは鹿自らお弁当を略奪しに来るか写生会にきた児童の画用紙をむしり取りに来るか…なので勝手に鹿煎餅or紙類主食だと思っていのだ。

さて、今日は鹿寄せを見に来たのである。
この時期毎日雨天でも行われているもので、名称そのまんまで鹿をホルンで呼び寄せるところを見る行事なのだ。

春日大社に向かう参道脇の原っぱ（名称忘れた）にはこれを見るために集まった人々が疎らにいた。多くもなく少なくもない。
遠足に来た子供たちがはしゃいでいる。

ホルンを持ったお兄さんを中心に半円を描いて囲む。お兄さんの周りにはすでに鹿が群がっている。
苦笑しながら「この子たちはフライング気味です。しかしホルンを吹けばもっと集まります。」

あちら側から集まってくると思います。と背後を指した。

お兄さんは簡単な説明をしているようだが、私はうわの空でやっぱ上等なカメラもってくりゃ良かったかな…いやビデオカメラのが良かったな。などとデジカメと格闘していた（どうもデジカメは苦手だ）

と、おもむろにホルンの音がした。どうやら始めたらしい。ホルンはとてもシンプルなもので、確かナチュラルホルン？だったか音色も優しい感じだ。

決まったメロディがあるのかないのかゆったりとした音色を奏でる。しばらくお兄さんが指した方向を凝視していたが来る気配は、ない。

そこに居た全員が「おい、ホンマに来るんかいな」と思ったに違いない。アンタ吹くのが下手やからちゃうか？とか。いやまぁコレは私が思ったことだが、いや失敬。

すると「来た！」と誰かが声を上げた。
急いでそちらの方向を見やる。何やら足音のようなものが聞こえるような…

そこには列をなして駆けてくる鹿の大群が！

写真をお見せしたいのは山々なんですが、デジカメで撮ったやつをどうアップすればいいのか分からないので割愛いたします、いや失敬。

代わりに集まった鹿を携帯で撮ったものをば何枚か。





バンビにどんぐりを与える凛さん。


鹿は珍しくないが、大群で駆けてくるなんてのは初めて見たので圧巻であった。
明後日の方向から慌てて遅れて走ってくる鹿もいて、あぁ居るよねこーゆー子なんて感慨に耽ってみたり。

凡そ100頭ほど集まった。眼前には尻尾を立てた鹿鹿鹿鹿…

奈良の鹿は食物を乞う時お辞儀をするので有名なのだが、最近それをしない輩が増えているようだ。
人間の世界のみならず、動物の世界にまで礼儀を知らぬ輩が増えるとは嘆かわしきかな、などと思ったが考えてみれば鹿は神の使いであって神獣なのだからむしろこちらが頭を垂れどうぞ召し上がってくだされと平伏するのが道理ではなかろうかと思い直した。

まぁそんな大げさに考えなくてもいいんだけど。

どんぐりを食べつくし、満足した鹿は各々散会していった。
まだ足りぬと強つく張りの鹿だけがホルン吹きのお兄さんにまとわりついている。
お兄さんはこれにて鹿寄せ終了と言いおもむろにホルンを掲げるとくるりと後ろを向きまたあのゆるゆるとした音色を奏でながら歩きだした。
その後ろを鹿達がまた列をなして続く。鹿の行進。何だか絵本に出てくるような光景だった。

鹿寄せ編終了。
次回はならまち散策編を書こうかと思います。